Cancer がん

「がん」という病気はよく耳にする病気です。
現在、日本人の2人に1人は一生のうちに何らかのがんになるといわれています。

がんは、すべての人にとって身近な病気です。分かりやすくいうと、遺伝子の突然変異により生まれる死なない細胞のことです。
人間の体には約37兆個の細胞があり、生命を維持するため細胞分裂を繰り返しています。
正常な細胞には寿命があり、細胞分裂によって増え続けることはありませんが、遺伝子にコピーミスが起こり、細胞分裂を繰り返す中で突然変異が生じることがあります。それが癌細胞です。

子宮頸がん

子宮頸がんとは、子宮頸部にできるがんのことです。
大部分の子宮頸がんはCIN(子宮頸部上皮内腫瘍)やAIS(上皮内腺がん)という、がんになる前の状態を経てからがんになります。がんになる前の状態であるCINやAISの時期には症状がなく、おりものや出血、痛みもありません。

子宮頸がんは子宮がんのうち約7割程度を占めます。以前は発症のピークが40~50歳代でしたが、最近は20~30歳代の若い女性に増えてきており、30歳代後半がピークとなっています。
国内では毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかり、約3000人が死亡しており、また2000年以降、患者数も死亡数も増加しています。

膣に近い側の部分にできた場合には、婦人科での観察や検査がしやすいため発見されやすくなりますが、より奥の筒状の部分にできると発見が難しいこともあります。
また、早期に発見すれば比較的治療しやすく予後の良いがんですが、進行すると治療が難しいことから、早期発見が極めて重要です。

子宮頸がんは、進行すると骨盤の中のリンパ節に転移したり、子宮頸部の周りの組織に広がったり、子宮から離れた肺などの臓器に転移したりすることがあります。
なお、子宮体部にできるがんは「子宮体がん」とよばれ、子宮頸がんとは区別されます。
子宮頸がんが進行すると、月経でないときや性交時の出血、においを伴う濃い茶色や膿のようなおりもの、水っぽいおりものや粘液がたくさん出るなどの症状がみられることがあります。
がんが子宮の外に広がると、多量の出血、骨盤や下腹部、腰の痛み、尿や便に血が混じる、下肢のむくみなどの症状が出ることもあります。

子宮頸がんのほとんどは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因であることがわかっています。
このウイルスは性的接触により子宮頸部に感染します。HPVは男性にも女性にも感染するあふれたウイルスであり、性交経験のある女性の過半数は、一生に一度は感染機会があるといわれています。
しかしHPVに感染しても、90%の人においては免疫の力でウイルスが自然に排除されますが、10%の人ではHPV感染が長期間持続します。
このうち自然治癒しない一部の人は異形成とよばれる前がん病変を経て、数年以上かけて子宮頸がんに進行します。
子宮頸がんは、早期がんのうちに治療すれば治癒率も高く、また子宮を温存できる可能性も十分にあります。
しかし進行がんになると再発率・死亡率も高くなります。
子宮頸がんの予防にはHPVワクチンによる一次予防がまず大切であり、次に子宮頸がん検診で早期発見し、早期治療をうけること(二次予防)が重要です。

乳がん

乳房は乳腺と、それを包む脂肪組織からなります。乳腺は乳頭から放射状に広がり、15~20の乳腺葉に分かれています。
乳腺葉は、乳管と小葉からできています。小葉は腺房という小さい組織が集まって形作られています。
女性の乳房では、授乳期にホルモンがはたらくと、腺房が発達して乳汁が作られ、乳管を通して分泌されます。
また、乳房には多くのリンパ管が通っており、乳房の外側のリンパ節のほとんどが腋窩(わきの下)に集まっています。腋窩に集まったリンパ節を腋窩リンパ節といいます。
このほかに、乳房から近いリンパ節として、乳房の内側の胸骨の隣にある内胸リンパ節と、鎖骨の上にある鎖骨上リンパ節があります。

乳がんは乳腺の組織にできるがんで、多くは乳管から発生しますが、一部は小葉から発生します。また、乳腺以外の乳房の組織から発生することもあります。
進行すると、がん細胞は周りの組織を壊しながら増殖し、血液やリンパ液の流れなどに乗って転移することもあります。
転移しやすい場所は乳房の近くのリンパ節、骨、肝臓、肺、脳などです。

乳がんは男性にも発生することがあり、女性と同様、多くの場合乳管から発生します。
男性乳がんに対する治療の流れは、基本的には女性乳がんと同じです。
また、男性乳がんの予後は女性乳がんと比べて大きな差はありません。11人に1人が乳がんにかかるとされていて、日本人の女性が最もかかりやすいがんです。
一方で死亡率は第5位を示しており、乳がんは早期に発見すれば比較的治りやすいがんと言えます。

乳がんの種類

乳がんは、非浸潤がん、浸潤がん、パジェット病の大きく3つに分けられます。

非浸潤がんは、「乳管」や「腺葉」の中にがん細胞がとどまっている段階のがんです。
しこりを触れないことも多く、検診のマンモグラフィや超音波で発見されたり、血性乳頭分泌で気づかれるがんが含まれます。
非浸潤がんは早期のがんで転移をおこさないため、この段階で治療ができるとほぼ完治できます。

「乳管」からがん細胞が「間質(乳管の外部の組織)」に広がったものを浸潤がんと呼びます。
しこりを触れる乳がんの多くは浸潤がんです。浸潤がんは浸潤性乳管癌(硬性型、充実型、腺管形成型)と特殊型(粘液がん、浸潤性小葉がんなど11種類)とに分けられます。
それぞれマンモグラフィや超音波での見え方や、がんの性質が異なります。

パジェット病は、乳頭のびらんで発見されることが多い乳がんです。
多くはしこりを触れない早期のがんで、全乳がんの1%未満の稀なものです。なかなか治らない乳頭部分のびらんはパジェット病の可能性があります。

乳がんの主な症状は、乳房のしこりです。自分で乳房を触ることで気付く場合もあります。
ほかには、乳房にくぼみができる、乳頭や乳輪がただれる、左右の乳房の形が非対称になる、乳頭から分泌物が出るなどがあります。
乳房のしこりは、乳腺症など、乳がん以外の原因によって発生することもあります。

乳がんのリスク要因としては、まだはっきりとしたことは分かっていませんが、その中でもいくつかの要因が考えられています。
乳がんの主なリスク要因としては初経年齢が早い、閉経年齢が遅い、出産歴がない、初産年齢が遅い、授乳歴がない、閉経後の肥満、飲酒習慣、一親等の乳がんの家族歴、良性乳腺疾患の既往歴です。
乳がんの発生、増殖には、性ホルモンであるエストロゲンが重要な働きをしています。リスク要因の中には、体内のエストロゲンレベルに影響を与えるようなものがほとんどです。

前立腺がん

前立腺がんとは前立腺の中に癌細胞が発見される病気です。
これは前立腺の細胞が正常に増殖する働きを失って異常な細胞が修正されることなく増殖してしまうことによって発生します。

癌は周囲の正常組織を破壊して広がり、進行すると転移といって他の臓器にも癌が広がる現象がおこります。
転移をしやすい臓器は癌の種類によって違いますが、前立腺がんの場合はリンパ節と骨が挙げられます。
前立腺は尿道に近い部分の内腺(みかんにたとえると実の部分)と外側の外腺(みかんにたとえると皮の部分)にわけられます。
前立腺肥大症という病気は内腺がおおきくなって、おしっこが出にくくなる病気です。これに対して前立腺がんの7割以上は外腺にできます。

前立腺は男性にだけある臓器で生殖器の一部です。
膀胱の下にあって、膀胱から出た尿道の周りを取り囲むように存在し、栗の実に似た形をしています。
前立腺の前には恥骨と呼ばれる骨盤の骨があり、後ろには直腸があります。
前立腺は精液の一部を作っていて、一回の射精量の3分の1位が前立腺から分泌されます。
発生から増殖・成長まで男性ホルモンに依存しており、加齢にともない多くの男性で肥大します。

前立腺がんの原因はまだ明確にはなっていませんが、動物性脂肪を多く摂ることや、緑黄色野菜の摂取不足は、前立腺がんの発生頻度を高くする原因の一つと考えられています。
日本でも、食事の欧米化や高齢化社会となっていることから、前立腺がんの発生頻度と死亡率は年々増加しています。
また近親者に前立腺がんの人がいる場合、前立腺がんにかかる確率が高くなり、近親者が父親か兄弟の場合はその頻度が2倍以上になると言われています。

早期の症状は全く症状がないことが多い。
よくある症状として癌が大きくなって尿道が圧迫されるようになってくると、主に排尿に関連した症状が出現します。
排尿困難(尿が出にくくなる)、頻尿(尿の回数が多くなる)、残尿感(尿が出きらない感じがする)、尿意切迫(尿意を感じると我慢できなくなる)、尿閉(尿道が強く圧迫されると尿が出なくなる)、下腹部の違和感です。
これらの症状は前立腺肥大症に似ていますし、前立腺肥大症も高齢者の病気なので、前立腺肥大症と前立腺がんが両方起こっていることもあります。
しかし両者は別の病気であり、前立腺肥大症が前立腺がんになることはありません。

癌が尿道や膀胱に広がると、排尿に関連した症状に加え、排尿以外の種々の症状が出現します。
血尿(尿に血液が混じる)、頻尿の増悪、尿失禁(尿が漏れる)、水腎症(癌が尿管を押しつぶしてしまうと尿がうまく流れなくなって腎臓が腫れる)、血精液症(癌が精嚢に広がると精液に血が混じることがある)、背部痛・腰痛、骨折です。癌が骨に転移を起こすとその部位に痛みを生じることがあり、背部痛や腰痛として感じられたり、手が痺れたりすることもあります。
転移をした部分の骨が脆くなると骨折をしやすくなります。

多くのがんは早期であれば治せる可能性が高く、治療においても身体への負担、時間や経済的な負担も軽いと考えられます。
定期検診を受けることで、がんの早期発見、早期治療で命を守りましょう。