目の症状
眼精疲労
眼精疲労とは、目に充血や痛みなどが起こり、視界がかすみ・ぼやける、まぶしさを感じるなどの症状がおこります。これが悪化すると目の症状だけではなく肩や首のコリがきつくなり、ときにはめまいや吐き気など全身疾患の状態を感じることもあります。このような症状が十分な休息をとっても回復しないものが眼精疲労で通常の疲れ目とは区別して考えます。
近年では、パソコンなどのディスプレイ作業が増え、近い距離にピントをあわせるために目の筋肉を使い続けてしまうことに起因する眼精疲労も増加しています。ただの疲れ目と侮っていると、体だけではなく心にまで影響を及ぼすこともあります。
眼精疲労では疲れ目と同じような目の症状のほか、全身におよぶ体の症状も現れます。
代表的な症状:
目がしょぼしょぼとする、目が重くなる、目の奥が痛む、目がかすんだりぼやけたりする、視点を移動したときすぐにピントがあわない、目が充血する、目が乾く、普段よりまぶしさを感じる、肩や首がこる、頭痛がする、けだるい(倦怠感)、めまいやふらつきがある、吐き気がする、など
眼精疲労の原因
目の使いすぎによる疲れ目とは異なり、眼精疲労はさまざまな要素がからみあって起こっていることがあります。代表的な原因としては、目の病気、体の病気、眼鏡やコンタクトに由来するもの、生活環境やストレスなどが考えられます。
眼精疲労を起こしやすい目の病気
ドライアイ
目の表面の潤いを保つ涙の量が減ったり、成分バランスが変化したりすると目の表面が乾燥し、傷がつきやすくなり感染症を起こしやすくなることもあります。
こうしたドライアイのさまざまな症状は眼精疲労の原因となりやすいといわれています。
実際に眼精疲労の患者さんの6割にドライアイの症状があるとする統計もあります。
白内障
網膜に像を結ぶレンズの働きをする水晶体が、加齢などによって白く濁ってしまうのが白内障です。
濁りによって生じる見えづらさや、光が乱反射してしまうことによるまぶしさなどで眼精疲労を起こすことがあります。
また白内障の手術では濁った部分を取り出し目の中にレンズを置きますが、それによって手術前の見え方から変化がおき、その落差によって眼精疲労がおきることもあります。
緑内障
眼圧が許容範囲を超えて高くなり視神経や網膜などに障害が発生し、だんだん視野が狭まってしまい、悪くすると失明に至ってしまうのが緑内障です。
視野が障害されている部分を無理やり補おうとしたり、副次的に発生する頭痛などの影響を受けたりすることによって眼精疲労が起きることがあります。
眼瞼下垂
まぶたを開くための眼瞼挙筋という筋肉の末端にある腱膜が加齢やコンタクトレンズの使いすぎなどによりゆるんでしまい、まぶたが垂れ下がったまま上がりにくくなる病気です。
視界が狭くなりものが見えにくくなるため、無意識のうちにまぶたを開こうとして力が入ってしまったり、上目遣いになったりする負担から眼精疲労を起こすことがあります。
屈折異常等
屈折異常とは、近視や乱視、遠視、老視などのことです。これらの症状による負担で眼精疲労がおこります。
また左右の目が違った方向を見てしまう斜視などでもおこることがあります。
老視
いわゆる老眼です。水晶体はある程度の弾力性があり、毛様体と呼ばれる筋肉線維の働きによってその厚みを変えてピント合わせをしています。
しかし加齢とともに水晶体の弾力性が失われてくるとピント調節機能が低下してしまいます。こうして近くのものが見えにくくなり眼精疲労を起こします。
また、度数の合っていない眼鏡やコンタクトレンズを使っていることでも、眼精疲労を起こしてしまうことがあります。
眼精疲労を起こしやすい体の病気
風邪やインフルエンザ、虫歯などの一時的な病気、高血圧や糖尿病、副鼻腔炎や歯周病といった慢性的な病気、更年期障害などから頭痛や目の奥の痛みが発生し、眼精疲労につながることがあります。
眼鏡やコンタクトレンズ
近視や乱視が進行したり、老視などによって見え方に変化がおきたりして、合わなくなった眼鏡やコンタクトレンズを使い続けることで眼精疲労が起こることもあります。
また、左右の視力が大きく異なっている場合には眼鏡の矯正では左右の像の大きさが異なってしまうことがあり、これによっても眼精疲労が起こります。
生活環境
近年、仕事でパソコン作業が長く続くことが当たり前になってきています。また仕事以外でもスマートフォンなどを見続けることによって、VDT(ビジュアル・ディスプレイ・ターミナル)症候群と呼ばれる症状をおこす人が増えてきています。
また、エアコンがあたりまえの環境のなかで、エアコンの風に直接あたり続けることによって目が乾燥しドライアイの症状が起こることもあります。
こうした生活環境で適切な休憩などを取らないと眼精疲労を起こすことがあります。
精神的ストレス
現代は対人関係などが複雑化し、精神的なストレスを抱え込みやすい時代になっています。過度にストレスを受けると、心の鬱屈から筋肉がこわばってしまったり、血流に影響がでたりすることもあります。
こうした症状からも眼精疲労を起こすことがあります。
眼精疲労の対策
まずはきちんと睡眠時間をとること、食事内容が偏らないようにすることなど、メリハリのある規則正しい生活を送ることが大切です。
また、照明やエアコンなどに配慮し、パソコンやスマートフォンを使用するときに設定や時間などに配慮することなど、生活環境を整えることで眼精疲労を軽減していくことは可能です。
ただ、現実に症状が起こっており、目や心身に大きな負担がかかってしまっているときには、眼科にご相談ください。専門家による治療や指導は疲労改善のために大きく役立ちます。
病気がないかのチェック
眼精疲労は目の疲れだけではなく、重篤な目や体の病気に起因していることがあります。症状に気づいたらまずは眼科医に相談しましょう。検査や診察などによって目の病気が発見されたら、その病気を治療することによって眼精疲労を起こしている原因を取り除くことができます。
眼鏡やコンタクトレンズなどの矯正不良についても適切なアドバイスができます。
生活環境の改善
エアコンや送風機などの風が直接目に当たる場合は、席の移動で対応しましょう。席の移動が難しいオフィスなどでは、直接風が顔に当たらないよう、風よけなどをデスクに立てるのも有効な手段となります。
また、パソコン作業などでは、まずは適切に休憩時間をはさむようにし、姿勢が正しくなるようイスの高さを調整することも大切です。
その際クッションなどを挟み座面も高さを微調整するのも有効です。ディスプレイは高い位置ではなく、少し見下ろす程度の高さに設置し、ディスプレイやパソコンなどの設定でコントラストや輝度を下げるなど目に優しいモードにします。またOSやアプリなどソフトウェアを目に優しいダークモードに設定することでも目の負担が大きく変わります。
ディスプレイに室内照明が当たって見えにくくなっているケースもありますので、その場合はディスプレイの方向を変えてみましょう。少し角度を変えるだけで証明による乱反射が低減されます。
また日常生活においては、意識的にまばたきを増す、目の視線を変える体操をするなどで目の潤いを保ち、緊張をゆるめることも大切です。
ストレスの解消・緩和
現代人はストレスからなかなか逃れられない生活を送っています。しかし、日常のちょっとした工夫によって、ストレスによる症状を大幅に軽減することが可能です。
たとえば、毎日入浴してリラックスする、休日や早めに仕事が終わった日にはジムやスポーツなどで思い切り汗を流すなどで、日ごとの鬱積を解消し、週ごとにリセットすることなどが有効です。
また仕事や趣味でパソコンやスマートフォンなどを長く使う場合も、イスに座ったままでも良いのでこまめに体を動かしストレッチをするなどで気分は大きく変わるものです。
それでも、重くストレスがのしかかり、なかなか解消できないようであれば、専門医やカウンセラーに相談し、治療や指導を受けることも大切です。ストレスが軽減・解消することによって目の症状も自然と軽減されてくるものです。
白内障
白内障とは、水晶体が年齢とともに白く濁って視力が低下する病気です。水晶体とは、目の中でカメラのレンズのようなはたらきをする組織で、外からの光を集めてピントを合わせるはたらきがあります。通常は透明な組織ですが、白内障では白く濁ってしまうため、集めた光がうまく眼底に届かなくなり、症状を引き起こします。
白内障の代表的な症状
① 視界が全体的にかすむ
水晶体はカメラのレンズに例えられますが、汚れたレンズを通して見た被写体は、ぼやけて霞んで見えます。
白内障が進行することでレンズの役割を果たしている水晶体が濁ってくれば、視界が霞んで見えたり、物がぼやけて見える症状が現れます。
② 視力が低下する
白内障の進行によって水晶体の濁りが強くなってくると、濁りが入ってきた光を遮ってしまうことで、網膜に十分な光(情報)を届けることができなくなり、視力が低下します。
③ 光をまぶしく感じる
外から入ってきた光は、必ず水晶体を通って網膜に届けられますが、白内障が進行して水晶体に濁りが生じてくると、入ってきた光が乱反射して、眩しく感じることがあります。
④ 日中と夜間で見え方が違う
目は瞳孔の収縮によって入ってくる光を調節しています。明るい所では入ってくる光を制限するために瞳孔が小さくなります。
逆に、暗い所では入ってくる光の量を増やすために瞳孔が大きくなります。
老人性の白内障は、水晶体の周辺部が濁り始めるため、瞳孔が小さくなる明るい所では自覚症状が無くても、瞳孔が大きくなる暗い所では、周辺部の濁りが光の通過を遮って、見えづらさを感じることがあります。
⑤ 近視が進行する
白内障が進行すると水晶体が固くなってきます。水晶体が固くなってくると屈折力が強くなり、網膜よりも手前でピントが合う近視の症状が現れることがあります。
今までは老眼鏡が無いと手元が見えづらくなっていたのに、白内障が原因で老眼鏡なしでも近くの物が見えやすくなることがあります。
⑥ 二重三重にだぶって見える
白内障が進行してくると、片目で物を見た時に二重三重に見えることがあります。これを単眼性複視(片眼複視)と言い、角膜や水晶体に異常がある場合に起こります。水晶体には入ってきた光を曲げる力(屈折力)があり、この屈折力が網膜に光を届ける役目を果たしています。
しかし、白内障が進行して水晶体に濁っている部分と透明な部分が混在してくると、入ってきた光がスムーズに通過できなくなり、光が散乱して目に入ってくることになります。これが原因で、物が二重三重に見えることがあります。
⑦ 老眼鏡をかけても細かい文字が読みづらい
老眼になると、「手元が見えづらい」「細かい文字が読みづらい」といった症状が代表的ですが、老眼鏡をかけることで改善することができます。
しかし、老眼鏡をかけても症状が改善しない場合は、白内障が疑われます。
眼鏡の度数が合わないのかと思って、眼鏡を作り替えに行った時に白内障が見つかることが多いのも、こういった理由からです。
水晶体の濁り方は一人ひとり違いますが、水晶体の周辺部(皮質)から濁りが始まる場合と、中心部(核)から濁りが始まる場合があります。中心部が透明であれば視力に影響が出ることは少ないですが、中心部が濁ると「まぶしくなる」「目がかすむ」「くすんだように見える」ようになります。
さらに進行すると周辺部も中心部もどちらも濁り、瞳孔(黒目)部分が白くあるいは黄色く見えるようになります。
白内障の種類
① 老人性白内障(加齢性白内障)
加齢が原因の白内障は、年を重ねれば誰にでも起こる眼の老化現象の1つと言われています。
水晶体は、主に水分とタンパク質で構成されており、レンズの役割と紫外線をカットする働きを担っています。
長年の紫外線暴露によって活性酸素が増加すると、水晶体に含まれるたんぱく質が変性し、老人性白内障の原因になると言われています。
白内障と聞くと、かなり年配になってから発症する病気といったイメージがありますが、早い方では40代から発症する場合もあります。
老人性白内障は、水晶体の周囲から濁りが生じ、徐々に中心に向かって濁りが進行するのが一般的ですので、発症初期の頃は自覚症状がありません。
しかし、自覚症状が無くても、眼科用の顕微鏡で確認すると白内障が認められる場合があります。
② 糖尿病性白内障
糖尿病性白内障の原因は、明確には解明されていませんが、糖尿病で高血糖値の状態が慢性化すると、ポリオール代謝が亢進して、白内障の原因になると言われています。
ポリオール代謝を簡単に説明すると、摂取したグルコース(ぶどう糖)は、ソルビトールという糖アルコールに変換され、さらにフルクトース(果糖)に変換されます。
糖尿病で高血糖値の状態が続くと、余分な糖を排出しようとするためにポリオール代謝が活発化し、細胞内のソルビトールとフルクトースの濃度が上昇します。このソルビトールという糖は水晶体の中に蓄積しやすく、白内障を引き起こす原因であると言われています。
また、糖尿病白内障は、水晶体の後側にある後嚢の中心から混濁する特徴があるため、視力障害などの発症初期から症状が現れます。
③ アトピー性白内障
アトピー性皮膚炎を発症している約30%の方が、白内障を併発させているという報告があります。
発症の原因は明確に解明されていませんが「免疫異常」「痒みに対する掻く・叩く・擦るといった刺激」などが関係していると言われています。
④ 先天性白内障
先天性白内障は、生まれつき水晶体に濁りがある症状で、原因としては遺伝的な要因と、母親が妊娠中に発症した風疹が胎内で感染したことが主な要因とされています。
症状が急激に進行するケースは少ないため、経過を観察するのが一般的ですが、水晶体の濁りが強く見え方に問題があると判断した場合は早急に手術を行います。
先天性白内障で注意しなければならないことは、白内障を患っているのが赤ちゃんであることです。
赤ちゃんは、自分の体調を言葉で伝えることができないため、両親が病気に気付いてあげることが重要です。
生後間もない頃の赤ちゃんは、視力が未発達な状態ですが、物を見ることによって徐々に眼と脳を繋ぐ視覚経路が発達していきます。大人と同じくらいの視覚にまで完成するのは、8歳くらいと言われていますが、白内障で物が見えない状態を長く放置しておくと視覚の発達が遅れ、弱視の原因になります。先天性白内障には、生まれた時から症状がある場合と、成長過程で白内障が現れる場合もあり、後者を発達性白内障と呼ぶこともあります。
⑤ 外傷性白内障
外傷性白内障は、目の怪我が原因で発症する白内障です。発症原因は、眼に強い衝撃を受けたことで水晶体がダメージを受けることが主な要因です。
力仕事などで目を打ったり、突いたりといった強い衝動を受けた時や、野球やテニスなどのスポーツをしている時に眼にボールが当たった衝撃で、白内障を発症することがあります。
また、眼内の手術時に水晶体がダメージを受けることによって発症する場合もあります。
受けた外傷の程度によっては、水晶体を包んでいる水晶体嚢が裂けてしまったり、水晶体を固定しているチン氏帯が弱くなって「水晶体亜脱臼」を起こすこともあり、眼の状態によっては通常の手術手技では対応できないケースや、眼内レンズが挿入できないこともあります。
外傷性白内障は、急速に進行する症例が多く、早急に手術を要するケースが多いのですが、怪我から数年経過して症状が現れる場合もあります。
⑥ 併発性白内障
併発性白内障は、他の眼の病気に併発して発症する白内障です。白内障を併発する眼の病気には、ぶどう膜炎、網膜剥離、網膜変性症、緑内障などがあります。
これらの眼の病気の診断を受けた場合は、定期的に眼科を受診して経過を観察することが大切です。
⑦ その他の白内障
放射線やステロイド剤の副作用によって白内障を発症することがあります。発症の原因は明確に解明されていませんが、服用しているステロイド剤の容量が多く、服用期間が長くなるほど発症リスクが高くなる傾向があります。
また、放射線の被曝によっても白内障を発症することがあります。
放射線との関連性については、明確に解明されていませんが、放射線被曝によって細胞が突然変異を起こすことが原因ではないかと言われています。
癌や白血病などに対する放射線治療で、多量の放射線を受けた方に多く見られ、短期間で多くの放射線を浴びた場合は、水晶体の濁りが急速に進行することがあります。
緑内障
緑内障は「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制し眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」(日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン)と定義されます。つまり緑内障は、視神経の形(乳頭形状)と機能(視野)の特徴的な変化から診断されます。緑内障では、眼圧を下げることが治療になります。2000年から2001年にかけて岐阜県多治見市で行われた大規模な研究の結果では、緑内障の有病率は40歳以上の男女で約5%でした。40歳以上の成人では20人に1人が緑内障であるということになります。また、多くの緑内障患者の眼圧が正常範囲内であることも分かっています。
眼圧とは…
眼球の中は、房水と呼ばれる水で満たされています。水晶体や角膜のような透明な組織の細胞も、酸素やブドウ糖などを取り込んで機能を維持しています。房水は水晶体や角膜に栄養を与え、眼球の形を保つ役割をしています。眼内の毛様体という白眼と黒眼の裏側のあたりで房水は産生され、眼内に栄養を与えて、前房に移動し、隅角(線維柱帯、シュレム管)を通って静脈に入り流れでていきます。眼圧は通常10mmHgから20mmHgが正常範囲内と考えられています。
緑内障の症状
緑内障は視神経の病気ですが、実際に死んでいく眼の中の細胞は網膜にある網膜神経節細胞という、網膜の最も内側にある細胞です。網膜神経節細胞は網膜が感じた光の情報を脳まで届ける役割をしています。網膜神経節細胞から軸索と呼ばれる電線のような構造が脳まで長らく情報を運びます。眼圧が上昇すると、網膜神経節細胞や軸索が障害されて、機能が低下したり死んでしまったりし、脳に視覚情報を伝えることができなくなり、視力が下がったり、視野が欠けたりします。緑内障は視野が欠ける病気とされていますが、視力に関する神経が障害された場合は、視力が低下します。ただし、緑内障の視野欠損は初期にはほとんど自覚がない場合が多く、治療が遅れることがあります。多くの網膜神経節細胞が障害されると、一部の患者では失明にいたります。緑内障は日本人の後天失明原因の第1位となっています。また急性緑内障発作と呼ばれる病態では、眼圧が正常値の倍以上に急に上昇し、眼痛、視力低下、嘔気、嘔吐などが生じます。適切な加療をしても著しい視機能障害をきたす場合があります。
緑内障の病型
大きく分けて2つあります。開放隅角緑内障と閉塞隅角緑内障です。
隅角とは、虹彩の付け根にある房水が眼の外に排出される部位です。隅角には「シュレム管」という管状の構造があり、その上に蓋をするように「線維柱帯」という網目状の組織があります。毛様体でつくられた房水は、角膜と水晶体を栄養し、老廃物を受け取り、隅角へと流れ、線維柱帯を通り抜け、シュレム管へと流れていきます。線維柱帯は、房水と呼ばれる目の内部の液体が排出されるための通路です。
まず、開放隅角は線維柱帯と虹彩の距離が離れている状態です。開放隅角で眼圧が高い場合は隅角が目詰まりを起こすなどして、房水が眼の外に排出されにくくなっている可能性があります。
閉塞隅角とは、虹彩と線維柱帯が接触して隅角がふさがっている(閉塞している)状態です。房水を線維柱帯から排出できないので、眼圧が上昇します。閉塞隅角になりそうな状態を狭隅角といいます。狭隅角は虹彩と線維柱帯の距離が近い状態で、何かの拍子に隅角が閉塞する可能性があります。緑内障と診断された方はご自身が閉塞隅角、狭隅角、開放隅角かは主治医に確認されることをお勧めします。閉塞隅角緑内障の方は、使用できない薬があります(内服薬や注射など)。
そのほかに原発緑内障と続発緑内障という分類があります。原発緑内障は眼圧上昇の原因をほかに求めることのできない緑内障、続発緑内障は他の眼疾患、全身疾患、薬物などにより眼圧上昇が生じている緑内障です。そのほか隅角の発育異常から生じる小児の緑内障もあります。
緑内障のリスク要因は眼圧が高いこと、高齢、家族に緑内障罹患者がいること、角膜が薄いこと、血圧が低いこと、糖尿病、きちんと薬で治療していないことなどとなっています。
現在のところ緑内障は生活習慣病ではないとされています。日常生活で、明らかに緑内障に良くないという生活習慣はありません。緑内障と診断されても通常どおりの生活を送りましょう。
耳の症状
難聴
音が耳に入ってから脳に伝わるまでのどこかの段階で障害が起こり、音が聞こえにくくなったり、まったく聞こえなくなったりする症状。音が聞こえにくい、言葉が聞き取りにくい、あるいはまったく聞こえないといった症状のことをいいます。
耳の構造は、「外耳」(入り口から鼓膜までの部分)、「中耳」(鼓膜、耳小骨)、鼓室と乳突蜂巣、「内耳」(さらに奥の蝸牛と三半規管などがある部分)の3つに大きく分かれています。
外耳と中耳は音を伝える役割をしており、内耳は音を感じて脳に伝える役割をしています。これらのどこか、あるいは大脳の聴覚中枢に障害が起こると、難聴を発症します。難聴は、外耳と中耳の障害によって音がうまく伝わらない「伝音難聴」と、内耳や脳に問題があり、音をうまく感じ取れない「感音難聴」の2種類に分けられます。
・伝音難聴:中耳炎や外耳炎、耳硬化症、耳あかの詰まりなどによるもの
・感音難聴:加齢性難聴や突発性難聴、ヘッドホン難聴などの音響性難聴、騒音性難聴、低音障害型感音難聴、メニエール病など
難聴の診断は、各種の聴覚検査や画像検査などによって、障害されている場所や原因疾患を特定して行われます。
難聴になるとさまざまな社会生活に支障をきたします。そして認知症のリスクが大きくなります。
必要な音が聞こえず、社会生活に影響を及ぼす。危険を察知する能力が低下する。家族や友人とのコミュニケーションがうまくいかなくなる。自信がなくなる。認知症発症のリスクを大きくする。社会的に孤立し、うつ状態に陥ることもある。
加齢による聴力の低下は一般的に高音域から始まります。40歳代のうちはあまり自覚することはないでしょう。しかし、確実に高音域の聴力レベルは下がってきます。早期に予防することが大切です。
60歳代になると、「軽度難聴」レベルまで聴力が低下する音域が増え、聞こえが悪くなったことを感じる人が急激に増えてきます。
さらに70歳をこえるとほとんどの音域の聴力が「軽度難聴」~「中等度難聴」レベルまで低下してしまいます。65-74歳では3人に1人、75歳以上では約半数が難聴に悩んでいるといわれています。
加齢以外に特別な原因がないものを「加齢性難聴」と呼びます。
加齢性難聴は音を感じる部位が障害される感音難聴です。主な原因は、加齢によって、蝸牛の中にある有毛細胞がダメージを受け、その数が減少したり、聴毛が抜け落ちたりすることです。
有毛細胞は音を感知したり、増幅したりする役割がありますので、障害を受けると、音の情報をうまく脳に送ることができないのです。
また、内耳の問題以外にも、内耳から脳へと音を伝える神経経路に障害が起きたり、脳の認知能力が低下することも影響している可能性があり、さまざまな原因が複数組み合わされて発生すると考えられています。
加齢性難聴はひと言でいえば、老化による聴覚機能の低下なので、残念ながら根本的な治療法はありません。大切なのは、できるだけ早期から補聴器などを使って、「聞こえ」を改善し、ことばを聞き分ける能力を最大限に発揮することなのです。
また、単なる「加齢性難聴」ではなく、中耳炎などによる「伝音難聴」、騒音やウイルスなどによる「感音難聴」を発症していたり、難聴をさらに進行させていたりする事もあります。
その場合は、投薬治療や手術などで治療できる可能性もありますので、「耳が聞こえづらいのは齢のせいだ」と決めつけずに、必ず耳鼻咽喉科医に診てもらうようにしましょう。
難聴の予防
加齢に伴う難聴は、老化現象の一種なので、誰にでも起こりうることです。しかし、進行を遅らせる、加齢以外の原因を避けるという意味での予防は十分に可能です。
耳にやさしい生活を心がける
・大音量でテレビをみたり音楽を聴いたりしない
・騒音など、大きな音が常時でている場所を避ける
・騒音下で仕事をしている方は耳栓をする
・静かな場所で耳を休ませる時間を作る
老化を遅らせるための生活習慣の見直し
・生活習慣病の管理栄養バランスがとれた食事
・適度な運動
・規則正しい睡眠
・禁煙
早期発見、早期治療のために定期的に耳鼻咽喉科受診を
・耳鼻咽喉科で聞こえの検査
・早期に補聴器で聞こえをサポート
突発性難聴
突発性難聴は、突然発症する原因不明の感音難聴です。感音難聴とは、内耳から脳に音がうまく伝わらない状態をいいます。
何の前触れもなく突然聞こえなくなった、または朝に目が覚めて気づくような難聴が多いです。
難聴の改善・悪化の繰り返しはなく、左右どちらか一方に起こる場合がほとんどです。ストレスや過労、睡眠不足、糖尿病など基礎疾患があると起こりやすいといわれています。
聴力を回復させるためには、発症後の早期の治療が重要となります。40~60歳の働き盛りの方に多いといわれていますが、全年代の方にみられます。
日本での発症は年間1万人に1~3人ぐらいの割合でしたが、近年増加しています。
難聴の程度は人によってさまざまで、耳の閉塞感だけの方もいらっしゃれば、全く聞こえなくなる方もいます。
また、高音のみ聞こえなくなるなど一部の音域のみの低下の場合、日常会話に支障がないため気づくのに遅れる場合もあります。
難聴の発症と前後して、耳鳴り、めまい、嘔気を伴うことがありますが、これらの症状がおこるのは一度きりで、繰り返すことはありません。
明らかな原因はわかっていませんが、蝸牛(内耳)で音の振動を電気信号に変換し、脳に伝える役割をしている有毛細胞が、何らかの原因で傷害されることで起こります。
ウイルス感染や内耳血流障害が、有力な説として考えられます。治療として抗炎症作用をもつ副腎皮質ステロイド薬の内服や、点滴投与による薬物療法が基本となります。ステロイドは1~2週間かけて徐々に減量していく漸減療法が一般的です。
その他に代謝改善薬、循環改善薬、ビタミン剤を併用することが多いです。生活リズムを整え、静かな環境でゆっくり心身ともに休めることも大切です。
適切に治療を行った場合でも、完治するのは1/3、なんらかの改善があるのは1/3、全く改善しないのが1/3とされています。
治療効果が乏しい原因として、受診の遅れ、高度難聴、めまいを伴う、糖尿病や高血圧など基礎疾患の存在、高齢での発症などがあげられます。
特に発症から1ヵ月程度で内耳障害が不可逆的なものになり症状が固定してしまうため、発症から1~2週間以内に治療開始することが重要となります。
突発性難聴の前兆と症状
・耳が突然聞こえにくくなった
・耳が詰まった感じがする(耳閉感)
・音が二重に聞こえる、響く、エコーがかかる
・耳鳴りが続く
・めまいや吐き気が起こった
ストレスや過度の緊張状態が長く続くことが発症の原因となることもあります。なるべくリラックスして生活することをお勧めします。食事や睡眠をよくとって、日常の疲れを癒してください。
メニエール病
天井や周囲が「ぐるぐる」回っているような感じがする、ちょっとした段差も踏み外してしまいそうになる、身体のバランスがおかしい、フワフワしてふつうに立っていることもつらい、ひどい船酔いのような気分。このように「めまい」や「バランス感覚のおかしさ」を感じたらメニエール病かもしれません。
メニエール病とは「めまい」と「吐き気」の発作が繰り返し起こる病気です。一般的には「耳鳴り」や「難聴」をともないます。発作は数分で治まることもあれば、数時間続くこともあります。また、長期間にわたって何度も発作を繰り返す人もいれば、一回かぎりの人もいます。30~50歳代に多く、高齢者にあまりみられないのも特徴です。発作を繰り返すと、耳鳴りが残ったり、難聴が進んだりすることもありますが、症状には個人差があります。
耳鳴り…めまいの発作が起こる前にひどくなるようです。発作を繰り返すうちに、慢性的な耳鳴りになっていきます。
難聴…発作とともに難聴になる場合と、発作を繰り返すうちに聴力が落ちてくる場合があります。一般的には低音が聞きとりにくくなるようです。
ふわふわ感…身体が傾く感じになって、実際によろけてしまったり、静止している物が動いているように見えたりします。
その他…発作の時には自律神経の働きがおかしくなり、吐き気や顔面蒼白、冷や汗、頭が重いなどの症状が現れることがあります。
発作が起きたときも、あわてず、安静に。もしもメニエール病の発作が起きても、あわてないこと。身体を横たえるなど、いちばん楽な姿勢で安静にしましょう。冷たい濡れタオルなどで目を覆って冷やすと楽になるという人もいます。
まわりの人の理解も必要。「めまい」の経験は健康な人にもあります。
それだけに、「その程度で」といった無理解や誤解も多いようで、無理をして仕事に出たり、学校へ行ったりということもありがちです。細かいことにとらわれず、病気と気楽に付き合っていくくらいの気の持ち方が必要かもしれません。
メニエール病の原因と対策
なぜ「めまい」が起こるのか?その原因は耳の奥にある内耳にあります。内耳は骨と膜の二重構造になっていて、膜の内側には内リンパ液が満たされています。
しかしストレスなど何らかの理由でこの内リンパ液の量の調整がうまくできなくなると、内リンパ水腫ができて神経が圧迫され、めまいや耳鳴り、難聴などの症状を引き起こすのです。
ふだん気をつけておきたいこと
・過労や睡眠不足に気をつける
・ストレスをためこまない
・バランスのとれた食事をする
・タバコは禁物、アルコールはほどほどに
メニエール病の根本的な治療法は残念ながら見つかっていません。基本は、発作時にその症状を抑えるための薬物による対症療法になります。
循環改善剤、血管拡張剤、ビタミン剤、利尿剤などが使われ、末梢血管の血行をよくしたり、体内の余分な水分を排出することで内リンパ水腫の状態を緩和します。
発作時には、鎮痛剤を使用することもあります。頻繁に再発を繰り返す場合は、内耳の過剰なリンパ液を取り除くなどの手術も行いますが、メニエール病は症状の現れ方や程度にかなり個人差があります。
最近は「めまい外来」という診療窓口も出てきていますので、専門医に相談しながら、自分にあった治療法を根気よく見つけていくことが大切です。
メニエール病にはストレス・睡眠不足・疲労が関与していると考えられており、薬による治療だけでは根本的な治療にはなりません。
「薬によって症状を抑える事が出来る」事で少し安心しつつ、ゆっくりとストレスの原因を見つめ直したり、生活習慣を正すことが必要です。
鼻の症状
鼻づまり
鼻づまりが続くと、鼻がつまって苦しいというだけでなく、匂いを感じなくなったり、口呼吸になるため、のどを痛めてかぜを引きやすくなったりします。
さらに、いびきや、集中力がなくなる、疲れやすいなどといった全身的な症状も伴い、小児の場合は学業や成長にも影響がでることがあります。
鼻づまりの原因はさまざまですが、感染症やアレルギー、鼻骨の歪みなど、鼻の粘膜の腫れや鼻茸(はなたけ)、粘った鼻汁などによって、鼻腔が狭くなり、空気の通りが悪く、鼻呼吸が十分に行えなくなる状態を鼻づまりといいます。
鼻水
鼻水にはドロドロの黄色い鼻水(膿性鼻漏)と、水のようにサラサラの鼻水(水様性鼻漏)があります。
鼻の奥の副鼻腔が感染を起こすと副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)となり膿性鼻漏がでます。
鼻水が出る原因の多くは、ウイルスや細菌による感染症です。ウイルスや細菌が鼻腔に侵入すると、防御反応の1つとして鼻の分泌物を増やして排除しようとするためです。
感染症初期の鼻水は水っぽくさらっとしていますが、細菌やウイルスが体内に侵入し、白血球や免疫細胞がそれらをやっつけようと働き始めると黄色く粘りのある鼻水へと変わります。
鼻血
鼻血は医学的に鼻出血ともいい、鼻の粘膜や毛細血管が何らかの原因で損傷すると生じます。
鼻をぶつける、のぼせや興奮、刺激物の摂り過ぎ、乾燥や鼻の粘膜の弱り、高血圧、血液をサラサラにする薬を服用している時など、小さな傷でも出血が止まりづらくなります。
鼻を押さえ続けても30分以上出血が止まらない時は病院を受診することをおすすめします。
副鼻腔炎(蓄膿症)
副鼻腔炎は蓄膿症とも呼ばれ、代表的な症状として鼻づまり、粘り気のある鼻水、顔面の圧迫感、鼻の中に悪臭を感じるなど、他にも様々な症状が現れます。症状が短期間で治る急性副鼻腔炎と3ヵ月以上続く慢性副鼻腔炎に分けられます。
これらの症状は、風邪のウイルスや細菌、アレルギーなどによって、副鼻腔の粘膜に炎症が起こることが原因です。
とても軽い急性副鼻腔炎であれば、7割程度の人が鼻の奥に溜まった膿をこまめに取り除くことで早ければ2週間、長くても1ヵ月程度で治ると言われており、自力で治るケースも少なくありません。
しかし、なかなか治らず慢性化してしまった場合は治療が必要です。いずれ治るだろうと放っておかず、早めに専門家に相談することにより正しい知識で治療を行うことをお勧めします。